本気でおすすめできるボーカルアルバム ブラックミュージック編
最近洋楽も邦楽も低調だと感じているそこのあなた!
そんな今だからこそ本当にいいボーカルソングを聴くべき時だ!
時代に左右されない真の歌曲とはこういうものだ!というのをこの記事で示したい。
なお本記事はブラックミュージック編だ。
1.Quincy Jones 「The Dude」
まずは、あのMJの名作「off the wall」と「thriller」のプロデューサーを務めたことでも有名なクィンシージョーンズが作ったブラックコンテンポラリーの集大成的アルバムを紹介したい。
このアルバムは1980年くらいに作られた。
ブラックコンテンポラリーとはあれだ。いかにもな2、4強調の四つ打ちビートの上でド派手なブラス、シンセ、カッティングギターなんかが暴れまわるおしゃれでエモい奴のことだ。
わかりやすい例はやはり全盛期MJ、つまり「off the wall」と「thriller」のことだがこの二つを聴いたことがない人は悪いことは言わないから聴いておいたほうがいい。
気に入れば人生が変わるし、気に入らなくても一般教養として知っておいて損はない。
内容について言うと、このアルバムはとにかく最高にブチ上がる音楽だ。細かいことは気にしなくていい。一曲目からバリバリにテンションが上がる。
ただ、逆に細かく聴いてみても音楽的にもかなり優れている。
当然だ。クィンシージョーンズはほぼ全てのメジャーな楽器を演奏できるだけの音楽的知識を持っており、出自はジャズだ。メジャーな楽器といっても5種類とかではない。オーケストラにある楽器ほぼ全て、それから現代的バンドに含まれるギター、ベース、ドラム、パーカスなどまでを自在に操る。
それだけのアカデミックな音楽知識を持った人間が、大衆のテンションをぶち上げるためだけに作ったアルバム。聴いてみたいと思うのは当然のことだ。
ブラコンが気に入ったら、ジョージベンソンの「20/20」と「Give Me The Night」あたりも名盤なので聴くといいかもしれない。
2.D'Angelo 「Black Messiah」
このアルバムは先程紹介したブラコンへの反動から生まれたジャンル、ネオソウルの総本山たるディアンジェロが2014年に作った作品だ。
ネオソウルとはどういうことかというと、ド派手なブラコンに疲れたみんなのところへやってきたダークで内省的なソウルミュージックのことだ。
基本的には小編成で、曲の展開は少なめ。作り物感のあるブラコンに比べて人間味があり、深みを感じさせる。
だが、このアルバムはネオソウルアルバムの範疇には収まらない。
まずネオソウルは2000年代初頭にはもうほとんど見られなくなったようなジャンルだ。
ネオソウルが何かを知る意味も含めて、彼の前作である「voodoo」も併せて聴くことをお勧めする。
このダークな雰囲気と、アルバム全体としての緩急。そして終盤の包み込まれるような優しく、熱く、エモい曲達。これこそがディアンジェロだ。彼はこの作品でネオソウルを終わらせたというか、完成させてしまった。
普通のアーティストならそこにしがみついて変化せずにオワコンになるところだが彼はそんなダサい真似はしない。
最新作black messiahにおいてジャズ、ロック、ヒップホップを果敢に取り入れてネオソウルを拡張、脱却し、前作を上回ってみせた。正に化け物である。
しかしそれに至るまでにはさすがの彼も時間と苦労を要したようであり、まずは麻薬中毒で入院、激太りといろいろなものを犠牲にした。
なんとかそれらを克服した彼は、R&B始まって以来の主要な曲を片っ端からバンドとしてコピーしつつ、他のジャンルも研究し、ブラックミュージックの本質を描き出してみせたのだ。
曲としてはネオソウル時代よりも展開に富み、曲調の多様性も増した。
しかしそれはアルバムとしてチグハグになったわけではない。
彼自身の個性とボイス(これは声という意味に止まらない広義でのボイスである)が全体に一貫性を持たせている。優れたアーティストとはアルバムの一貫性をジャンルではなく、自らの色で持たせるものなのだ。
3.Marvin Gaye 「I Want You」
このアルバムは最高に熱く、そしてエロいソウルアルバムだ。この男、歌がうますぎる。曲もエモすぎる。
70年代に活躍したマーヴィンゲイの一番人気な作品はWhat's Going On、もしくはMidnight Loveだろう。
しかし私はこのアルバムがベストな入口だと思う。
「What's~」は社会的メッセージの込もった彼がブレイクしたきっかけの作品で、「Midnight~」はシンセを取り入れた晩年の問題作である。
対してこのアルバムは彼の純粋なセックスしたいという思いで作られた中期の作品である。これこそが彼の本質だと私は思っている。
もう少し綺麗めだが本作に近い思想の作品として、「Let's Get It On」もある。というかどっちのタイトルも和訳すれば「セックスしようぜ!」になるから当たり前なのだがともかく、こちらもおすすめだ。
そうやってリラックスした本当の彼を知ってから、先程挙げた二作品にも耳を通せば必ず彼が好きになれるだろう。
気になる内容はというと、ストレートに狂おしいほどにエモいソウルミュージックだ。エレキギターがネチネチとしたエロいフレーズを弾いてきたり、女性の喘ぎ声が入ったりとにかく熱くなれる要素満載だ。アルバムを通してのダイナミクスの使い方が本当にうまく、40分弱があっという間に経ってしまう。
トラディショナルなソウルはいつまでも輝きを失わないので、彼の音楽があなたの一生を彩ってくれること間違いなしだ。
4.Prince 「Sign O' The Times」
このアルバムはあのMJ生涯最大のライバル、Princeにより作られた作品だ。
MJが世間のニーズに合わせて音楽を変遷させたのに対し、Princeは常に時代の二、三歩先を行き、尖った作品を世に送り出し続けたパイオニア的存在だ。
彼の音楽ジャンルは「Prince」としか言いようがない。ファンク、ソウル、ロックをシンセやエレキギターでごちゃまぜにした初期の音楽は、彼の出身地から「ミネアポリスファンク」と呼ばれる。しかしその後はアルバムごとに、アルバム内の曲ごとにジャンルが目まぐるしく変わるため、もはや定義することが無意味になっている。
しかしまあこの人も多彩な人で、バンドで使われる類の楽器は一通りできたようである。そのため最初の4、5作品は全てを一人で作曲、レコーディングし、ミックスダウン、マスタリングというポストプロダクションまでを手掛けたというから驚きだ。
まさしく音楽界の貴公子である。
さて、今回紹介するこのアルバムは、異常なほどの多作家である彼の一度目の全盛期の真っただ中、1987年に作られた。
それまでのポップな彼に比べよりロックとファンクの比重が高くなっており、クールでエッジの利いた作品に仕上がっている。
正直に言うとわかりやすいアルバムではない。二枚組で時間もかかるため、初心者向けの記事で取り上げるべきかは悩んだ。
もっとわかりやすいポップなアルバム、例えば「Purple Rain」「Controversy」「LoveSexy」そして第二次、第三次全盛期をそれぞれ代表する「Musicology」「Art Official Age」なんかの方がいいんじゃないかとも思った。
ただ私はこの作品の底抜けの明るさと、退廃的な虚無が同居しているところが大好きなのだ。このアルバムこそが彼の「ファンクネス」であり、「ロックンロール」だと私は考えている。
みなさんも是非彼のクールさを体感してほしい。それから彼のいろんな面を知っていってほしい。
5.Earth, Wind & Fire 「I Am」
みんな大好きアースウィンドアンドファイアだ。誰だって「September」を聴いたことがあるだろう。彼らは本当に明るく、楽しげなバンドだと思われている。
しかし元々は、スピリチュアルで非常にブラックな本格派ファンクバンドだった。
それはもはやジャズと言えるくらい抽象的で民族的な音楽だったのだが、そこから彼らはどんどんとポップスの方へ舵を切っていく。
方向転換した初めのころはファンク色がまだ色濃く残っていて黒人、白人両方から愛されていたが、ますますポップになっていく彼らを元々のファンは快く思わなくなっていったそうだ。
そういう人たちはきっと彼らを黒人の代弁者だとみなしていた。それなのにディスコミュージックという白人手動の儲かる音楽に迎合しやがって、この裏切り者め!と考えたのだろう。
こういう板挟みに遭った彼らは自らの進むべきを見失い、度重なるメンバーの変更や解散、再結成するも不人気だったりという憂き目に見舞われていく。
本作は彼らに最も人気があった時期、1979年の作品であり、ポップスへの転向が完了した時の作品である。
ヒット曲としては傑作ディスコソング「Boogie Wonderland」と泣けるバラード「After the Love Has Gone」が収録されている。
しかしヒット曲以外も非凡な曲ばかりで、特にアルバムのはじめ五曲くらいの流れは完璧だ。
この時の彼らのサウンドにあるのは純粋な音楽の楽しさであり、誰もが頭を空っぽにして踊ることができるアルバムに仕上がっている。
現代ならば誰もが称賛する出来だが、当時はやはりまだ黒人差別が根強かったため正当に評価することは難しかったのだろう。
だからせめて我々はこのアルバムを純粋に楽しもうではないか。
ちなみに私はこのアルバム以外のEW&Fはあまり好きではない。このアルバムは他のアルバムに比べて卓越していると私は思っている。
6.Kendrick Lamar 「To Pimp a Butterfly」
このアルバムは2014年に発売されたヒップホップアルバムである。
みなさんヒップホップはお好きだろうか?私はそんなに好きではない。
理由はラップが苦手なことと、曲調が繰り返しばかりで聴き飽きてくるからだ。
ヒップホップっていう音楽の核は、ラップとサンプリングだからそれを抜いたらもう何も残らない。だから私がヒップホップを好きになることはない。
そう思っていた。
しかしここに常識を覆す新たなアルバムが現れた。それがケンドリックラマーの二作目である「TPaB」だ。
この作品ではヒップホップとジャズが高次元で融合されている。
これは本当に衝撃で、正に新ジャンルが誕生したことを大衆に知らせる記念碑的作品だった。
実はこの2ジャンルの接近というのはジャズ界において2010年くらいに活性化していた動きである。
もとを正せば90年ごろのハービーによる「Future Shock」やマイルスの「Doo-Bop」がその走りだったのだが、その後誰も追従することなくまだまだ未完成な分野だった。
それを大きく前進させたのがロバートグラスパーやテラスマーティン、フライングロータスといった西海岸の気鋭のミュージシャン達である。
そして、彼らは全員今作に参加している。
ジャズ界から来たのがピアニストのグラスパー。彼の「Black Radio」こそがこのムーブメントの第一歩だったと言われている。
サウンドの包括的監督役を担ったのがジャズサックス奏者兼プロデューサーのテラスマーティンであり、彼はこの作品の蝶番的役割を果たした。代表作は「Velvet Portlaits」。
ビート面と危ない部分全般をプロデュースしたのがビートメイカーのフライングロータス。彼自身はエレクトロニカや前衛的なアルバムを作っている。詳しくはまた別の記事で取り上げたい。
そしてラッパーのケンドリックラマー。彼のラップは普段聴いていない私にもその異質さがわかる。独特のリズム、抑揚のつけ方、マシンガンのような勢い。彼は本当にスター性がある。
ちなみに前作「Good Kid, Mad City」はもう少しヒップホップ寄りだがこれまた優れた作品なので気に入ったら聴いてほしい。
他にも優れたジャズメンやボーカリストが多数参加しており、全員の個性が入り乱れて咲き誇っているのがこのアルバムだ。
全体としてのストーリー性が強く、ケンドリックの葛藤とそこからの再生が映像のように脳内に流れ込んでくる。
一曲一曲の密度も濃く、本当に素晴らしいものなのでヒップホップ嫌いにも是非聴いてほしい逸品だ。
7.Sly and the Family Stone 「Fresh」
スライは1970年代に活躍した、ジェイムスブラウンの生み出したファンクというジャンルをよりわかりやすくするべく、ロックと融合させたグループである。
ファンクは正直、わかりにくい。ライブで聴くことで真価を発揮する音楽だと思う。
しかしスライは最高にクールで楽しい。
彼らの有名な作品は「There's A Riot Going On」と「Stand!」であり、今作はそこまで有名ではない。しかしその2つに比べ、よりポップで都会的な仕上がりになっている。
リアルブラックなファンクネスとは少し違うが、入門にはふさわしいだろう。
8.Stevie Wonder 「Songs in the Key of Life」
スティービーワンダーを聴いたことのない人間はかなりの少数派だろう。
みんな気づいていなくても度々耳にしている、それが彼の音楽である。
彼はプリンスと並ぶ超多作家で、プリンスが出てくる前の全部自分でやってしまう系アーティストだった。
1960年代から活動を始め、70年代に全盛期を迎える。
特に三部作とも呼ばれる、グラミー賞を三連続で獲得したアルバムたちの評価には凄まじいものがある。
本作はその三作目にあたる二枚組、20曲にも及ぶ大作である。
このアルバムを作るにあたって彼は1000曲作り、その中から厳選したそうである。
もはやレベルが違いすぎて何も言えない。
彼のジャンルはよくモータウンと呼ばれるが、その実態はただのいい曲である。
白人音楽とも黒人音楽とも分けることはできない。どちらともとれるピュアなソングライティングとアレンジは未だに多くのミュージシャンが参考にしている。
ではこのアルバムはどういう特徴を持っているかというと、「いい曲がいっぱいある」ということに尽きる。
彼の曲はもはや古典の域にあり、大体の曲に通ずるところがあるので逆算的に素直な印象を受けるのだ。
しかしまあ名曲ぞろいだ。
「Constitution」「Sir Duke」「I Wish」「knocks Me Off My Feet」「Isn't She Lovely」「As」「Another Star」の七曲に関しては、今発表されていたらそのまま軽くグラミー賞を取るだろうなと思えるレベルの仕上がりになっている。
ただ彼には他にもいくつか同じくらい優れたアルバムがある。
特に「Inner Visions」「Fullfillingness' First Finale」という三部作のうち他二作は聴いておくことをおすすめする。
まとめ
すぐ終わらせる気が、気づいたら8アルバムも挙げてしまった。
しかしこれでブラック、ポップミュージックについてはまとめられた気がする。
ジミヘンドリックスの「エレクトリックレディランド」も言及したかったが、私はそこまで彼について詳しくないのでやめておいた。ただこのアルバムは、ロックはブルースが元になっていることを知れる名作なのでロックファンにはぜひとも聴いておいてほしい。
それと、DaftPunkの「Random Access Memories」を入れるかも迷ったが、悩んだ末にやめておいた。ただ、70年代的な白めのダンスミュージックについてあまり取り上げていないのでそこを補強する意味でもここで紹介しておく。いいアルバムだしね。
仮にこのアルバムが気に入ったのなら、Tuxedoの「Tuxedo」を聴くのを薦める。
ブラックミュージック以外のボーカルアルバムについてまとめるかは未定である。
私はロックや白めのポップスにはそこまで詳しくないし、あまり得意でもない。
まとめるとしたら「その他」としていろんなものを寄せ集めた形になるだろう。
この記事であなたの音楽の嗜好が少しでも幅を増したなら僥倖である。